就職すると多くの職場で行われる「健康診断」。休日に行かなければならないケースもあり「サボれないかな?」と思うこともあるかもしれません。そもそも、健康診断はなぜ必要なのでしょう。毎年受けなければいけないのでしょうか?理由と必要性を現役看護師がわかりやすく解説します。
なぜ労働者は健康診断を受けなければならないの?
健康診断は病気の早期発見が目的です。病気は生活習慣や遺伝だけでなく、業務に関連して発症するケースもあります。業務に関連した病気や怪我・死亡が起こらないためにも、病気の予防や早期発見は欠かせません。また、病気になると働けなくなったり、人生の満足度を低下させたりするだけでなく企業の生産性も低下させます。病気や怪我・死亡は労働者・雇用者双方のデメリットが大きく、早期発見・早期治療のために健康診断の受診が推奨されているのです。
労働者の健康診断は「義務」だからサボれない
労働者の健康診断は「義務」であると、労働安全衛生法で決められています。法律で健康診断の受診が義務付けられていますから、面倒でもサボってはいけません。実施が義務付けられている健康診断には、以下があります。
一般健康診断
健康診断の種類 | 対象となる労働者 | 実施時期 |
常時使用する労働者(次項の特定業務従事者を除く) 1年以内ごとに1回 | 常時使用する労働者(次項の特定業務従事者を除く) | 1年以内ごとに1回 |
特定業務従事者の健康診断(安衛則第45条) | 労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者 | 左記業務への配置替えの際、 6月以内ごとに1回 |
海外派遣労働者の健康診断(安衛則第45条の2) | 海外に6ヶ月以上派遣する労働者 | 海外に6月以上派遣する際、 帰国後国内業務に就かせる際 |
給食従業員の検便 (安衛則第47条) | 事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者 | 雇入れの際、配置替えの際 |
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
また放射線や有害な薬剤、重量物を扱う仕事などは業務に関連した病気を発症しやすいため、業務内容に応じた、より詳細な健康診断が義務付けられています。職場の指示に従って健康診断を受診しましょう。
健康診断をサボるとどうなるの?
健康診断をサボっても、労働者には罰則はありません。けれども「罰則がないから、サボっても大丈夫!」というわけでもないのです。
労働者が健康診断を受けないと、事業者は罰金を支払わなければいけないこともありますし、職場で繰り返し健康診断を受けるように言われます。職場によっては、特定の業務で働けなかったり、減給されたりするかもしれません。
また、過労で倒れたり業務に関連した病気になった場合に、健康診断を受けていないと労働者側はとても不利になります。「仕事と病気の関連が認められない」「適切な予防行動が取られていない」と判断され、損害賠償請求が棄却されたり労災保険給付金が減額されたりなどが起こりかねません。健康診断をサボると、相応のリスクがあることは理解しておかなければならないのです。
働く時間帯によっては健康診断を「年2回」受ける
実は健康診断を「年1回受ける人」と「年2回受ける人」がいます。健康診断が1回か2回かは働く時間帯によって異なります。具体的には以下です。
年1回 | 非深夜勤務従事者 | 深夜勤務がない人 |
年2回 | 深夜労働従事者 | 6か月平均で月4回以上 22時以降の勤務に従事する人 |
筆者は看護師として病院で勤務しています。以前は夜勤がある部署で働いていて、健康診断は年2回受けていました。現在は夜勤がない部署で働いているため、健康診断は年1回です。働き方によって健康診断の頻度は異なっているのです。
健康診断は何を調べる?
定期健康診断の検査項目は労働安全衛生法で決められています。検査項目は以下のとおりです。また、35歳以上は病気のリスクも上がるとされ、健康診断の検査項目が増えます。
定期健康診断 (安衛則第44条) |
1.既往歴及び業務歴の調査 2.自覚症状及び他覚症状の有無の検査 3.身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 4.胸部エックス線検査 5.血圧の測定 6.貧血検査(血色素量及び赤血球数) 7.肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP) 8.血中脂質検査(LDLコレステロール、LDLコレステロー ル、血清トリグリセライド) 9.血糖検査 10.尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査) 11.心電図検査 |
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
健康診断で「見つかりやすい病気」
健康診断で見つかりやすい病気は糖尿病、高血圧、高脂血症などの「生活習慣病」や肝臓や腎臓の病気です。これらは、健康診断でおこなわれる基本的な検査で見つかりやすい病気です。
生活習慣病は知らないうちに発症し、症状を自覚するころには取り返しのつかない状態になるケースも少なくありません。定期的に健康診断を受け「異常」や「再検査」を指摘されたら精密検査を受け、適切な治療をおこないましょう。
健康診断で「見つかりにくい病気」
健康診断で見つかりにくい病気の代表例は「がん」です。一般的な採血検査や胸部エックス線検査で異常が認められる時には、がんはかなり進行しているケースがほとんどです。がんの早期発見のためには、エコー検査やCT・MRI、胃カメラ、マンモグラフィー、特定のがんを見つけるための採血(腫瘍マーカー検査)が有効といわれています。しかし、一般的な健康診断ではおこなわれていない検査が多く、がんが見つかりにくいのです。
そのほかには、脳血管疾患や心疾患も一般的な健康診断では病気が見つかりにくいといわれています。
「もっとしっかり調べたい」「がんになっていないか不安」という人は、オプション検査や人間ドックでより詳しく調べることもできます。健康診断をおこなう際に、相談してみるとよいでしょう。
現役看護師からのアドバイス
仕事が忙しかったり疲れていたりすると、ついめんどうになって「健康診断をサボりたい」と思うかもしれません。さらに、採血や簡単な検査と医師の診察だけで「病気なんて見つからない」と思っているかもしれません。
生活習慣病の多くは健康診断で見つかりますが「がん」はくわしく調べていない場合もあり、すべての病気を見つけることは難しいのが実情です。
けれども健康診断を長年受診しておらず病気に気づかなかったり、「要検査」「要精密検査」の結果を放置したりしたために、命にかかわる病気になった患者さんがたくさんいます。ご自身の健康状態を知り、病気の早期発見のためにもぜひ健康診断を受けてください。今年の健康診断があなたの5年後・10年後の健康に繫がるのですから。