新入学や就職で親元を離れ一人暮らしをはじめた人の中には、偏食や欠食(食事を食べない・抜く)傾向に陥る人も少なくありません。食事を抜くと体にはさまざまな影響が現れます。今回は食生活と健康に関する世界中の研究から、朝食抜きがマイナスである理由を解説します。
3人に1人の若者が「朝食抜き」
厚生労働省が2019年におこなった調査によると、朝食を食べない20代の一人暮らしの人は全体の35.7%にのぼります。これは全年齢平均9.1%の約4倍で、一番高い割合です。朝食を食べない人を詳しくみていくと、全く何も食べない人は21.4%と5人に1人の割合です。さらに朝食をお菓子や果物のみで済ませている人は14.3%にのぼり、多くの人がバランスのよい食生活ではないことが推察されます。
朝食抜きで起こるさまざまな弊害
「1日3食食べよう」「規則正しい食生活を」と子供のころから繰り返し耳にしてきた人もいるでしょう。自分の生活リズムに合っていて、体調を崩さないのであれば、食事はいつ食べてもいいのではないかと思ってしまいますよね。朝はできるだけ寝ていたいし、メイクや身支度に忙しいし、食欲もないし、めんどくさいし。実は、朝食を食べないことでさまざまな弊害が起こることが明らかになっています。朝食抜きが与える影響を、世界中の報告や論文から考えます。
朝食抜きは学力が低下する
農林水産省の食育推進施策報告書によると「毎日朝食を食べている」と回答している児童生徒の方が、各教科の平均正答率が高い傾向がみられます。1)2)
さらに中学3年生の国語・数学・英語3科目の平均正答率の合計を「朝食を毎日食べている人」と「朝食をまったく食べない人」を比較してみると、その差は歴然です。
国語 | 数学 | 英語 | 合計 | |
朝食を毎日食べている人 | 74.8 | 62.5 | 58.0 | 195.3 |
朝食をまったく食べない人 | 60.6 | 44.9 | 45.7 | 151.2 |
朝食は栄養補給だけでなく、よく噛んで食べることで脳や消化器官を目覚めさせる役割を持ち、規則正しい生活習慣の獲得に繋がります。朝食は学習に必要な脳のエネルギー源となり、基礎学力の向上に繋がっている可能性があります。
朝食抜きは健康に悪影響
朝食抜きは一日の摂取エネルギーや栄養摂取量が低下し、健康に悪影響を与えます。具体的には以下です。
朝食抜きの場合の悪影響リスト
- 成人期の肥満発症リスク4) 5)
- 身体活動量の低下6)
- 過体重7)
- ヘモグロビン A1C 値8)および空腹時インスリン濃度の上昇9)
- 骨密度の低下10)
朝食で午前中の活動に必要な栄養素やエネルギーが摂取できないと、昼食までにエネルギーが欠乏しパフォーマンスの低下や体調不良に繋がります。体力を維持するために、次の食事量が増え脂肪を貯めこみやすくなります。さらに、頻繁に朝食を抜く人はたまに抜く人よりも胃腸の働きが弱くなり、肥満や過体重に繋がると結論づけた論文もありました。4)7)
- 「果物を食べて美容に気を使っているから問題ない」
- 「栄養ドリンクを飲んでいるから大丈夫」
- 「サプリメントで栄養素を補っているから体には影響がない」
と思っている人もいるかもしれません。果物・栄養ドリンク・サプリメントはあくまで補助的な食品。医学・栄養学的には「栄養とカロリーのバランスがとれた食事」とは言い難いのが実情です。
特にダイエットを目的として、朝食抜きや果物やサプリメントなどで簡単に済ませている人は要注意です。短期的には体重減少効果が見込めるかもしれませんが、中長期的には太りやすい体を作っている危険性があり、朝食抜きは医学的にも決しておすすめできないのです。
朝食抜きの人に共通する”ある特徴”
ここからは、2014年に首都圏の女子大生約1000人を対象におこなわれた研究を紹介します。1か月の朝食の摂取状況や生活リズム、食事内容、体調などを多角的に調査した結果、朝食抜きの人に共通する以下の特徴が明らかになりました。11)
・起床時間・就寝時間・食事時間が決まっていない
・起床時間・就寝時間・食事時間が朝食を食べる人に比べて遅い
・一人暮らしの人が多い
・1日の活動量が低い
・朝食を食べる人と比べて1日のタンパク質由来のエネルギー量が少なくなる
・朝食を食べる人と比べて1日の糖質由来のエネルギー量が増加する
・体調不良を自覚する人の割合が多い
・食生活に問題があり、改善したいと思っているができていない
皆さんも心当たりはないでしょうか?
また、朝食抜きの理由として多く挙げられたものは、以下がありました。
・身支度等で忙しい(60.0%)
・もっと寝ていたい(46.7%)
・食欲がない(32.5%)
・時間がもったいない(25.0%)
「私もそう」「わかるわかる」と思った人も多いかもしれませんね。
朝食抜きの人の多くは、夜型生活で就寝・起床時間も遅くなるため睡眠時間が不足し、朝食の時間が確保できない傾向も明らかになっています。
さらに「体調不良の感じやすさ」は、朝食抜きの回数と比例して増える傾向がありました。生活リズムや食事のリズムが乱れると、自律神経も乱れやすいといわれています。体調不良を自覚している人は、朝食を毎日食べると体調の改善が期待できる可能性があるのです。
現役看護師からのアドバイス
「朝は忙しいし、食欲もないから……」「あと5分寝ていたいから、朝ごはんは食べない」新社会人になり一人暮らしを始めた筆者もギリギリまで寝ていたい派で、朝食は抜いていました。しかし、朝食を絶対に食べる夫と結婚し朝食を抜かない生活にシフトしました。
朝食を抜いていた頃は夕食を食べ過ぎて朝はお腹がすかない、午前中は元気がない、昼に食べ過ぎて午後眠くなることも多かったように思います。朝食抜きの人の特徴に当てはまっていますよね……。いくらメリットを聞いても、朝食を食べる生活にすぐにシフトするのは難しいかもしれません。朝食の時間を確保するためには、早く起きる必要があります。そのためには、今までよりも少しだけ早く寝る必要があり、生活習慣の見直しも必要です。
朝食の準備が大変な人は、前夜におにぎりやお味噌汁を準備しておいたり、夕食の残りを食べたり、パン・スープ・サラダなど簡単に準備できるメニューを工夫し手間をかけないことも大切です。
新生活のスタートからつまずかず、さまざまな弊害を招かないためにも朝食抜きはやめるようにしたいですね。
参考文献
1) 令和元(2019)年度 全国学力・学習状況調査
https://www.nier.go.jp/19chousakekkahoukoku/
2) 令和2年度 食育推進施策 農林水産省
https://www.google.com/url?q=https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wpaper/attach/pdf/r2_wpaper-13.pdf&sa=D&source=docs&ust=1649026341842264&usg=AOvVaw2uOCVKdaD4IHJRv2kzXf6C
3) P106 第11表 朝、昼、夕別にみた1日の食事状況-朝・昼・夕別、食事状況、年齢階級別、人数、割合-総数・男性・女性、20歳以上[一人世帯] 令和元年国民健康・栄養調査結果の要 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000710991.pdf
4)Yunsheng Ma, Bertone E.R., III E. J.S., Reed G.W., Hebert J.R., Cohen N.L., Merriam P.A., Ockene I.S. : Association between eating patterns and obesity in a free-living US adult population, Am J Epidemiol, 158, 1, 85-92 (2003)
5)Deshmukh-Taskar P.R., Nicklas T.A., OʼNeil C.E., Keast D.R., Radcliffe J.D., Cho S. : The relationship of breakfast skipping and type of breakfast consumption with nutrient intake and weight status in children and adolescents : the National Health and Nutrition Examination Survey 1999-2006, J Am Diet Assoc, 110, 6, 869-878 (2010)
6)Keski-Rahkonen A., Kaprio J., Rissanen A., Virkkunen M., Rose R.J. : Breakfast skipping and health-compromising behaviors in adolescents and adults, Eur J Clin Nutr, 57, 7, 842-853 (2003)
7)Berkey C.S., Rockett H., Gillman M., Field A., Colditz G. : Longitudinal study of skipping breakfast and weight change in adolescents, Int J Obe Relat Metab Disord, 27, 10, 1258-1266 (2003)
8)Reutrakul S., Hood M.M., Crowley S.J., Morgan M.K., Teodori M., Knutson K.L. : The relationship between breakfast skipping, chronotype, and glycemic control in type 2 diabetes, Chronobiol Int, 31, 1, 64-71 (2014)
9)Smith K.J., Gall S.L., McNaughton S.A., Blizzard L., Dwyer T., Venn A.J. : Skipping breakfast: longitudinal associations with cardiometabolic risk factors in the Childhood Determinants of Adult Health Study, Am J Clin Nutr, 92, 6, 1316-1325 (2010)
10)Kuroda T., Onoe Y., Yoshikata R., Ohta H. : Relationship between skipping breakfast and bone mineral density in young Japanese women, Asia Pac J Clin Nutr, 22, 4, 583-589 (2013)
11) 中井あゆみ 首都圏における女子大学生の朝食欠食と 健康的生活行動との関連 日本食育学会誌 第9巻第1号/平成27(2015)年1月P41
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokuiku/9/1/9_41/_pdf